前作「紅蓮館の殺人」の続編です。
紅蓮館のラストでは、後味悪く終わってしまった主人公たち…。
今後2人がどうするのか気になっていたので、続編の存在は嬉しいです。
では感想、簡単に書いていきます。
感想(重要なネタバレなし)
あらすじ
学校に来なくなった「名探偵」の葛城に会うため、僕はY村の青海館を訪れた。
政治家の父と学者の母、弁護士にモデル。名士ばかりの葛城の家族に明るく歓待され夜を迎えるが、激しい雨が降り続く中、連続殺人の幕が上がる。
刻々とせまる洪水、増える死体、過去に囚われたままの名探偵、それでも_夜は明ける。
新鋭の最高到達地点はここに、耽美にして極上の本格ミステリ。 講談社タイガ裏表紙より
「耽美にして極上の本格ミステリ」…本当に?
前作「紅蓮館」も、本格ミステリという触れ込みでした。
でも、全然違いましたよ? すごく真剣に読んだのに、がっかりした記憶があります。
なのでこの「蒼海館」は一々謎を解かず、さらっと読んでいきたいと思います。
以下、ざっと読んだ内容です。
まぁよくある嵐の山荘系ですね。
現代ものらしく、スマホもしっかり使えます。
でも、台風による増水により、物理的にクローズドサークルとなっているので、スマホが使えたからと言って特に救助は呼べません。
主人公2人は相変わらず拗らせ高校生です。
それはもう、めちゃくちゃ拗らせてます。
私はあまり好みじゃありませんが、そういう青春物が好きならアリなのかな?
また、家族同士の誤解と和解が多く書かれており、家族ものが好きな人にとってもありなのかな?
物語としてはこの青春&家族を主軸としています。
面白いか面白くないかは…どうでしょう?
私は面白くはなかったかな…。
さて、ではミステリとしてはどうか_?
まぁ、予想通りのミステリでした。
紅蓮館の流れを引き継いで、この蒼海館ありという感じです。
真犯人やメイントリックの予測は簡単です。
伏線らしきものも沢山散らばっていて興味深いです。
ただし、回収されない伏線(ただのミス?)が大量にあるので、謎解きには向いていません。
正直、タイガ文庫裏表紙の「耽美にして極上の本格ミステリ」は言い過ぎだと思います。
良かった点(ネタバレ有)
ネタバレ有で良かった点を挙げていきます。
- 探偵が復活した
- 梓月さん(助手のお兄さん)がかっこよかった
- 田所君(友人)が常識人ぽくて安心した
- 家族(一人を除き)が仲良くなって良かったね
- 違和感を見つけるのが楽しい
こんな感じでしょうか?
まさにハッピーエンド的結末は好感が持てます。
紅蓮館では最後に「落として」きましたからね…。後味悪かった。
それに対し、今回は探偵&助手のメンタルが浮上して良かったと思います。
これでバシバシ事件を解決していけますね!
また、今回は助手のお兄さんの梓月さんが登場しました。
なかなか優秀で良いキャラだと思います。
なんなら彼が探偵役が良いです。
さらに、高校の友人の田所君も結構いいです。
田所君は普通の人っぽいので、今後も拗らせずに生きて欲しいですね。
探偵:梓月さん 助手:田所くん とかでスピンオフ書いてくれないでしょうか。
また、紅蓮館同様、今作も至る所に違和感が散りばめられています。
それがただのミスなのか、伏線なのかは微妙な所ですが、
そういった違和感を見つけていくのは楽しい作業でした。
気になった点(ネタバレ有)
ネタバレ有で気になった点を挙げていきます。
- 水位が30m上がるイメージが持てない
30mと言うとビル10階くらいです。
館の標高が約70m、通常の水位が標高40mあたりです。
山間部とあるけど標高自体は低いですね、平野の近くでしょうか?
Y村は低湿地だとありました。それなら結構平らで広いイメージになります。
その辺一帯で一番高いのが館の場所らしい…その周りが全て水…。
うん、全然イメージできないです。一体どんな地形をしているのでしょう?
館の間取りより、これが可能な地形図・地図を付けて欲しかったです。
あと、60年前も水没してます。
治水に力を入れたほうが良いですね。 - 作者がトンネル好きすぎる
今回も出てきましたよ! トンネル!
もともと穴があったとはいえ、その穴の位置を検討付けて自力で掘るのは大変です。
穴掘りって、めちゃくちゃ大変なんですよ…。
坂の途中のご夫婦、尊敬します。
しかも最後には地下空間が崩壊し、館が少し沈みます。
え…びっくり。
このシリーズに出てくる地下道って、ちょっと現実離れしていません?
最初はまたトンネルかい! と思ったけど。
読んでるうちに楽しくなってきました。
もういっそ全ての作品にトンネルを使って欲しいです。 - 作者が田舎をなめている
Y村は人口200人ほどです。
田舎のこれはね、もうみんな知り合いなんですよ!
その中に正(犯人)が変装して潜り込むのは絶対に無理です。
くわえて、避難の仕方・避難所でのやり取りもおかしいです。
何せ水害が多いとわかっているY村ですから、もっとちゃんと避難方法を確立しているはずです。
避難所でのトラブル(男が子供に怒鳴る)だって、まるで都会(知らない人同士)の避難所のやり取りです。
田舎の隣人情報網を舐めてます。
作者は都会人なんでしょうが、もう少し田舎について調べたほうがいいのでは? - 死体と身長差の関係が不満
死体は正じゃなくて黒田だったわけですが…結構な身長差です。
助手も初見で「死体の入れ替わりは身長差があって無理だ」としています。
入れ替わりさせるなら、この辺をしっかり詰めて欲しいです。 - 助手がうかつ過ぎる
最初は葛城家族を警戒していた助手ですが、あっという間にほだされます。
正直、チョロすぎます。
しかも、ミチルに窃盗を働かせ、それを探偵に推理させようと画策します。
え? ミチルと探偵の確執の原因知ってるよね? 探偵が推理でミチルを暴いたからだったよね?
同じことをさせようとするの?友人である探偵に対して、ひどくない?
そそのかされた部分もあるのでしょうが、それにしてもそんなことするキャラじゃなかったと思うけど。私の読解力不足でしょうか。 - 黒田さんの不在を誰も気にしない不思議
黒田さんですが、午後6時過ぎに健治郎に頼まれ、川の様子を見に行きます。
そして午前1時過ぎ、黒田さんの不在が判明。健治郎も「報告をうけていない」とただ言うだけ。
…増水している川の様子を見に行ってから7時間ですよ! だれか心配しなよ!
特に健治郎、あなたが頼んだんでしょ! - 人物像・話が薄い
探偵自身も言っているけど、後半に出てくるホームドラマが薄すぎます。
これで和解できるなら、そもそもこんなに拗れてません…。
おまけに結局家族はイイ人な感じ(正を除く)で終わっているし。
登場人物達に全然共感できません。
まだまだあります!
割れた硝子の件・車の爆破・認知症老人の自己注射・タイムテーブルの誤植・水の抜き方 他にも気になる点は沢山ある。
あり過ぎて忘れた!!
全体的に言えるのは…。
この世界、物理法則と人の思考方法が変じゃないですか?
ズレているというか、私にはちょっと理解が出来ません、悲しい。
いっそ、架空世界のファンタジーにしてくれれば、それらの違和感もすんなり受け入れられるのですがね…。
まとめ
紅蓮館に続く蒼海館、なかなか楽しく読ませてもらいました。
ミステリとしてはおススメ出来ません。
伏線以前の色々な事に対する違和感で、謎解きどろこじゃありません。
が、この違和感がちょっとくせになるかも。
「間違い探しクイズ」としてみると、非常に優秀な小説です。
…さては作者と出版社、本来の狙いはそっちですか!?
個人的に拗らせ主人公は好きじゃないのですが、ここまで読んでしまったからには彼らの今後が気になるのも事実。
何せ葛城家では身内から2人犯罪者が出ています。
探偵の今後はいかに_?
次の事件は何色でしょうね。
次回作、期待しています!