屍人荘の殺人の続編! シリーズ第2弾! 魔眼の匣の殺人 感想と違和感【ネタバレあり】

感想
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2019年2月に東京創元社から発行された、今村昌弘(いまむらまさひろ)さんの小説です。

屍人荘の殺人」で華々しくデビューしたシリーズの第2弾!!
デビュー作が素晴らしい作品だっただけに今作も楽しみに読み始めました。

※今後出てくる作品のページ数は「東京創元社」のページ数です。

あらすじ

その日”魔眼の匣”を九人が訪れた。人里離れたその施設の孤独な主は、預言者と恐れられる老女だ。彼女は葉村譲と剣崎比留子をはじめとする来訪者に「あと二日のうちに、この地で四人死ぬ」と告げた。外界と唯一繋がる橋が燃え落ちた後、預言が成就するがごとく一人に死が訪れ、閉じ込められた葉村たちを混乱と恐怖が襲う。さらに、客の一人である女子高生も予知能力を持つと告白しー。
残り四十八時間。二人の予言に支配された匣のなかで、生き残り謎を解き明かせるか!?
二十一世紀最高の大型新人による、待望のシリーズ第二弾。

※このあらすじは本のカバーから引用しています。
「二十一世紀最高の大型新人」という煽り文句は中々のものですね。作者にとって必要以上のプレッシャーにならなければいいのですが。

感想

普通です!

クローズドサークルものです。前作は〇〇を用い、読者をあっと驚かすことに成功しました。
今作は預言者・予知能力者が登場します。…が、しかし、個人的にはその予言&予知能力をうまく描けていなかったように思います。

物語としては「サバの照り焼きこそ本格推理だ」(P8)という始まりが、強制的に前作を思い出させることに成功しており、うまいな!と思います(寂しさも感じてしまいましたが…)

そして前作に引き続き、登場人物の名前を語呂合わせで付けている(P95~97)ことは、登場人物の名前を覚えることが苦手な私にとって、非常に好感が持てます!

ただ残念ながら、シリーズの味といってしまえばそうなのでしょうが、ライトノベル的文体や、葉村と剣崎の微妙ないちゃつき具合に関しては、正直もうお腹いっぱいです…
「壁ドン・両手バージョン背式」(P112)はちょっと、もう…

ミステリとしてはオーソドックスな仕掛けを使っていることや、犯人がある程度限定されているので、犯人を読み解くのも可能だと思います。
が、それほど力を入れず、軽い気持ちで一気に読み進めることをオススメします。

屍人荘の殺人が面白かっただけに、第2作のパワーダウンは正直残念です。堂シリーズのようにならないことを祈っております…

総評

読んでよかった度:☆☆
また読みたい度:☆
次回作は期待よりも心配が大きい度:☆☆☆☆☆

※以下ネタバレがあります!!

違和感

いくつか違和感を感じましたのでまとめてみました。

犯人の特定方法

文字盤に着弾の跡がない(P272)→手間をかけて時計を壊したのは、時計の針が二本とも全く同じ位置で折れているから(P291)
…というのが犯人特定の推理方法ですが、部屋にあった時計が「長針短針ともお尻の針の部分が長いアナログ時計」であった場合、十時二十分~二十五分頃であっても長針のお尻の部分と短針が重なり、犯行時刻の特定が可能となります。

これを避けるためには
①時計の針の描写を詳細にする
②十時二十分頃、全員のアリバイがあることにする
という描写が必要ですが

①に関しては「文字盤にはガラスの覆いもなく二本の針が剝き出しになっている」(P145)とあるのみです。
②に関しては十時十五分~三十分まで、茎沢のアリバイがありません。

つまり、茎沢は十色に撃たれた可能性もあります!

もちろん、作品内の事実として、通常の長針と短針が重なる十時五十四分の時点で針が折れているので、王寺の犯行であることは間違いないのでしょうが、描写の甘さにより、この作品は「問題編」で提示された条件では、犯人の特定は不可能だということになります。

予言&予知能力

「サキミの予言を信じる人物が、死の予言から逃れるためにクローズドサークル内にも拘わらず殺人を犯した」(P296)というのが推理の大前提ですが、王寺が犯人である場合、この動機が理解できません(犯人が朱鷺野・神服だった場合、この動機は理解が出来ますが)。

何故なら2日後にはクローズドサークルは開かれます。
2日間生き延びたとしても、殺人者として逮捕され、社会的に非常に困難な状況に追い込まれてしまいます。
さらに言えば王寺とすると、男を一人殺せばそこからは安全です。警察の捜査が入るのが分かっているのに、敢えて交換殺人を行い、女性二人を殺す道を選ぶ理由が不可解です(また、いつ自分が死ぬか分からないのに、女性から殺していく悠長さも「予言を信じていた」という前提から離れていると思います)。

せめて、誰かを殺してでも自分が生き延びたい理由、又は、自分はいずれ死んでも良いがこの四十八時間以内には絶対に死ぬわけにはいかない理由、などを作品内で書いてくれていたらまた違ったと思います。

動機はもちろん人それぞれです。
「サキミの予言を信じる人物が、死の予言から逃れるためにクローズドサークル内にも拘わらず殺人を犯した」という事が動機になりえることも理解できますが、あまりにも作品にとってご都合主義が過ぎる展開や犯行動機が描かれると、作品に入り込めないどころか興醒めしてしまいます。

王寺は三つ首トンネルの呪いから身を守るため、身体に入れ墨を入れる程、呪いを信じています。しかしその呪いを信じたのは仲間が死んだという実績があったからです。オカルト全般を盲目的に信じている訳ではないはずです。

サキミ

ここで問題です。
あなたは自殺をしようとしています。しかし、自殺することはバレたくありません。
毒を用意しましたが、毒の量が多すぎて余ってしまいました。余った毒を処分したいのですが、毒を処分する方法がありません。さて、あなたはどうするでしょうか?

答えは「次の機会を伺う」です。

しかしながら、サキミが選んだのは「ちょっと探せば見つかる所に毒を隠し(P259)、自殺を決行する」というものでした…

自殺であることがバレると、あれほどサキミ=岡町が固執した「自身の権威を守る」ことが出来ません(自殺したことがバレると「予言の帳尻合わせのために自殺したんだ!」と噂されることでしょう)。

十色側からすると絵を描き終わったタイミングで不幸が発生する必要がありますが、サキミ側のタイムリミットは24時間以上あります。
自殺を偽装するのであれば、何故バレる状況で自殺を決行したのでしょうか?
毒を隠していることがバレないために、自分の部屋に入ることを禁じることを神服に命じなかったのは何故でしょうか?

もちろんタイミングは人それぞれです。
しかしながらあまりにも作品にとってご都合主義が過ぎる展開は興醒めしてしまいます。

比留子

本作の比留子は全体的に冴えがありません。

冒頭から違和感があります。前回の事件の調査結果で<班目機関>は国家が絡む規模であると分かったはずです。一介の大学生の手に負えるものではありません。

本作は、事件に巻き込まれる周期が訪れることが分かっていながら、敢えて事件に巻き込まれにいっています。そこまでして<班目機関>の謎を調べる必然性が分かりません。
明智さんの事を悔いているのならば、絶対に葉村を連れていくべきではないですし

そして、四人の死が完了した時点で、比留子の生存は確定しています。
全員の前で謎解きをしなければならない必然性はないはずです。

前作で示された「ただ事件に巻き込まれ、そこから生き延びるために必死になって事件を解決する探偵」像はどこに行ってしまったのでしょうか。

また、最後の王寺を追い詰めるシーンも納得がいきません。

そもそも、サキミによる死の予言は完了していますが、死ななければ予言に影響はないはずです。
ペティナイフでも目を抉るぐらいのことは出来るでしょう。
サキミの予言を信じて犯行に及んだ犯人からすると、この時点で比留子を刺したとしても絶対に死なないので、犯人は安心して刺すことが出来ます。(ちなみに同様の理由で、茎沢の生死が分からない時であったとしても、他の男を殺せばいいだけです。サキミの予言は100%当たるので、茎沢は100%生存して帰ってくるはずです)

結局のところ比留子は「探偵という特等席が用意されている探偵」でしたね…

さらに言うと、最後のサキミ=岡町に対する
「インチキ預言者の烙印を押されることになる。(中略)回避する手段はただ一つ、自分の死を予言し、その通りに命を絶つ」(P329)
という予言も意味不明です。
「自らの死を予言し、その通りに命を絶つ」ということを決行するやつこそインチキ預言者でしょう…

作品全体の雰囲気

サキミの予言・十色の予知能力が本物かどうかについて考察されないままに物語が進んでいくため、話に入っていけません。
十色勤の手記の部分は、それこそ『月刊アトランティス』を読んでいる気分でした。

予言・予知能力が本物なのかどうか怪しいため「残り〇〇時間のうちに〇人死ぬ」という単語にびっくりするくらい効果がありません(予言・予知能力について、比留子・葉村コンビがあまりに考察しないまま葉村がしつこく「残り〇〇時間のうちに〇人死ぬ」と言っているので、このコンビが犯人かな?とも思った程です)。

因みに予言・予知能力を信じられない理由は、サキミに関する描写のせいでもあります。
あまりにも簡単に会えてしまうことで神秘性が薄れていますし、トイレに行く予言者、というのもちょっと世俗的過ぎると思います。

交換殺人に対する考察も微妙です。
「予言から逃れるための殺人なら、異性から狙われるはずがない」(P305)という理論が成立するためには「この事件の犯人は、予言から逃れるために人を殺している」ということを全員が確信しなければならないはずです。
何故なら、事件の犯人の動機を信じなければ、性別に関わらず全員を警戒するだけだからです
クローズドサークル内で人が次々に死んでいった際「同性だから危ない!」「異性だからセーフ!」と悠長に構えるのは難しいと思います。(そういった意味で、十色が神服を殺したのであれば「異性を警戒しない」という交換殺人の意図が綺麗にハマっていた、と言える作品になったと思います)

ちなみに、比留子はともかく、ミステリマニアである葉村が交換殺人に思い至らないのは不自然です
さらに言うと、推理小説において橋が燃えたとするならば「どちら側から燃えたのか」というのは、橋の延焼具合から判断できるはず(P74)。その検証を葉村が行わないことも不自然ですね。

最後に

性別がトリックの根幹に関わる作品ですので、師々田純の性別を登場人物紹介で「息子」と書いたことは失敗だったと思います。

師々田厳雄の監視があったとは言え、小学生を誘い出すのはさほど難しいことではないでしょう(ちなみに師々田厳雄の監視も怪しいです。サキミが毒殺されかけ、犯人がいるであろう場所で居眠りをする警戒度の低さですから…)

そんな、ある意味で浮いた駒である、師々田純が生き残ったのは「性別の特定が出来なかったから」とかの方が面白かったです。
(「女の子みたいな美少年」とかの描写を入れればいいですし、比留子の名前を語る場面(P175)で、「ウチの純の名前も由来があって…」というセリフを入れて場面転換すれば良かったと思います)

この師々田純。実は少し怪しいです。
「お兄ちゃん。比留子お姉ちゃんだけは絶対に助けようね」(P264)
という言葉ですが、この時点では比留子は死の偽装中です
サイコメトラーの槐寛吉の能力を隔世遺伝したのでしょうか?

となると、次回作は「交霊術の宮藤藤次郎」「ダウジングの北上ハル」辺りが登場するんですかね?



特殊な設定を読者にすんなりと理解させるためには、読者への根回しが必要不可欠です(そういった意味で、7回死んだ男はやはり傑作でした)。
次回も恐らく特殊な設定になると思われるので、本の帯に「〇〇については疑わずに読んでください(作者談)」とでも入れて欲しいですね。


前作「屍人荘の殺人」感想はこちらです。
また、こちらは漫画化・映画化もされているので原作と見比べても面白いと思います。