周木律さん著堂シリーズ:個人的な独断と偏見によるランキング【ネタバレ含む】

感想
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周木律(しゅうきりつ)さんが2013年から手掛け、2019年に大団円をむかえた堂シリーズ
全七巻を読み終わりましたので、個人的見解によりランキングを作ってみました。

なお、途中からネタバレを含みますので、堂シリーズが未読の方はご注意ください!

ネタバレなし

他人にお勧めできる堂ランキング

①眼球堂の殺人
②双孔堂の殺人
③五覚堂の殺人

第一位はやはり眼球堂です!
森博嗣さん(「すべてがFになる」で第一回メフィスト賞受賞。その他作品多数)が「懐かしく思い出した。本格ミステリィの潔さを。」という名文を眼球堂の殺人の帯に書く程、ミステリとしての完成度が高いです。
想像を絶する建物だった「眼球堂」、そこで起こる密室殺人、不可能状況、魅力的な探偵・登場人物、そして読者への挑戦状…
一度読み終わった後も、作品に張り巡らされた伏線を理解するために再読すること間違いなし!再読中も、素晴らしいトリックの数々に魅せられます。
あの一冊で全てが完結しており、全力でお勧め出来ます!

第二位は、眼球堂の流れをしっかりと汲む双孔堂がランクイン!
堂そのものの形が魅力的なことはもちろんですが、シリーズものならではの構成や仕掛けがあるなど、とても面白く読むことが出来ます。
また、この後の堂シリーズを牽引する宮司司さんの初登場も双孔堂です。
堂シリーズに度々出てくるアナグラムについても、個人的には双孔堂のものが一番好きです。

第三位は五覚堂です。
「五覚堂。この建物は『回転』します」というとんでもないネタバレを序盤に持ってくる構成や、映像に映る内容を見て探偵が犯人を推理するという一風変わった仕掛けがとても面白いです。
また、読者を悩ます「映像の中の事件は、いつ、どこで起こったものなのか」という問題に対して、物凄く綿密に練り上げられて作られています。周木律さんが五覚堂に仕掛けたミスリードをうまく躱し、真実を掴み取ることは非常に難しいと思います。
五覚堂の魅力について堂シリーズの編集者のお言葉をお借りするならば
「…まさか五覚堂にあんな秘密があり、しかもそれを使って×が××るなんて」です。

実際に見てみたい堂ランキング

①鏡面堂
②眼球堂
③伽藍堂

高さ三十メートル以上、横幅が百メートル以上ある楕円形のドーム状の建物である鏡面堂が第一位です。
森の中にひっそりと佇む、外壁の全てが鏡面仕上げになっている建築物、という時点で見てみたいですし、内部から見ても天井が鏡面仕上げになっているので、その豪奢さを一目見てみたいですね。

第二位は眼球堂。円周百メートルの大理石で仕立てられた白亜の窪地(こんな表現があるか分かりませんが…)、その中にある円周四十メートルの眼球堂。
また、明回廊・暗回廊の境目も見てみたいですし、眼球堂の内部から見える白亜の窪地と様々な形の塔という圧巻の風景も見てみたいです!

第三位は伽藍堂です。
伽藍堂は外から見ることは出来ませんが、見てみたいのは内部です。
三十メートルある立方体の空間。その立方体の床が黒、そして壁がという圧倒的な色彩の暴力に触れてみたいですね。

堂そのものではないためランクインさせなかったのですが、大聖堂のアトリウムから見える満点の星空もぜひ見てみたいです!

星空

建物が大きい堂ランキング

建物の敷地面積は含めず、堂の大きさだけのランキングです。
敷地面積を含めるとランキングに変動があるのですが、ある程度のネタバレに繋がるので建物のみの大きさで比較してみました。

①教会堂
②大聖堂
③鏡面堂

高さ約四メートルのコンクリートで覆われた、縦幅約二百メートル、横幅約二百五十メートルの長方形に近い建物である教会堂が第一位!
横幅約二百五十メートルと言われてもピンときませんが、学校にある体育館の広いほうの幅が約五十メートル弱ですので、横幅だけで体育館五つ分あります!
また、電車の幅が約二十メートルですので、十二両編成の電車の長さが教会堂の横幅になります。…巨大ですね。

高さ約七十メートル弱、幅四十メートル弱大聖堂が第二位。
高さ七十メートルと言われてもやはりピンときませんが、ウルトラセブンが四十メートル、五重塔が五十五メートル、太陽の塔が七十メートルです。
…ピンとこないかもしれませんが、巨大さは伝わったかと思います。

高さ三十メートル以上、幅約百メートル弱の楕円形のドーム型の建物である鏡面堂が第三位です。
幅は鏡面堂の方があるのですが、ドーム型であるということで体積が小さめと考えられるので、こういった順位となりました。
高さ三十メートルと言われても相変わらずピンときませんが、十階建てのビルぐらい、体育館の高さの約二倍ぐらいです。
体育館を横に二つ、縦に二つ並べた大きさが教会堂のだいたいの大きさということになります。

ここからネタバレを含みます!堂シリーズが未読の方はご注意ください!

ネタバレあり

建築費用がかかった堂ランキング

①大聖堂
②伽藍堂
③眼球堂

第一位はやはり大聖堂です。
時速三十キロで航行可能な堂、あの巨大さで断熱膨張・断熱圧縮を起こす気密性チョココロネのような独特の形などから考えても物凄く費用がかかったと思います。
(ちなみに大聖堂の高さは約七十メートルで、これは豪華客船クイーンエリザベス号の高さ(約五十七メートル)すら超えます)
また、二十四年前の事件でも航行可能だった大聖堂ですが、一度爆破されその後また建造されており、つまりは大聖堂は二回も建てられているのです。
バナッハタルスキ教団の豊富な資金力があるからこそ完成できたまさに大聖堂の名前に相応しい堂と言えると思います。

豪華客船

第二位は伽藍堂。堂の大きさは一辺三十mの立方体が2つと、堂シリーズの中では大きなものではないのですが、三十メートルの立方体を回転させる機構、そして全長約二百メートルの浮島の建設に物凄く費用が掛かっていると思います。
大聖堂同様、堂が海上にありますので、資材の運搬費も物凄くかかったと思うので第二位としてみました。

3位は眼球堂。円周百メートルある敷地に敷き詰められた大理石や円周四十メートルの眼球堂を回転させる機構など費用が高額になる要素がたくさんあります。
また、大聖堂や伽藍堂と違い、眼球堂の建造にかかった費用については「十億円の数倍」であると言及している部分があります(P76)。
沼四郎の富豪さに驚くばかりです…

犯行にかかった労力ランキング

①大聖堂の殺人

⑥伽藍堂の殺人
⑦教会堂の殺人

第一位は間違いなく大聖堂です。
約三時間の講演を行う
→船で堂に移動後、重いエレベーターの鉄扉を開け、梯子を三十メートル登り、鈍器により被害者を撲殺し、梯子を降り、船で襟裳岬に移動
→約三時間の講演を行う
→船で堂に移動後、重いエレベーターの鉄扉を開け、梯子を三十メートル登り、刃物により被害者を刺殺し、梯子を降り、船で襟裳岬に移動
→約二時間の講演を行う
→船で堂に移動
というかなりのハードスケジュールさです。
さらに、この事件の犯人の年齢が九十歳代であることを考慮すると、まさに超人のような体力の持ち主であると言えます!

そして実は、堂シリーズの被害者たちは堂が持つ機能の犠牲になる場合が多いので、犯人の労力があまりかからない場合が多いです。(眼球堂の墜落死など)
そういった意味で、「労力がかからない」堂についても書いてみます。

というわけで、労力第六位は伽藍堂です。
一人目は適切なタイミングでリモコンのスイッチを押すだけ、二人目は少し大変ですが、それでも鈍器で殴りつけるだけです。
それだけの労力で「はやにえ」のような印象的な演出を行うことが出来るのは、堂の力に他なりません。

そして第七位はやはり教会堂です。
ちょっと怪しげなフードをかぶる、姿勢よく早足で歩く、謎めいたことを言う。
これだけの労力で次々と犠牲者を生み出すことに成功しました。
堂の設計者を褒めるべきか、被害者達の機転の利かなさを貶めるべきか悩むところですが…

人類が受けた損失ランキング

①大聖堂の殺人
②眼球堂の殺人
③鏡面堂の殺人

第一位は大聖堂です。
事件があった二十四年前の事件も含めると、リーマン予想に近付いた数学者が八人も死亡しています。
そしてやはり、藤天皇。人間性はともあれ「リーマン予想」を「リーマンの定理」に導いた偉大なる人物であることは間違いありません。
(しかし残念ながら公式な発表なく死亡してしまったため、「リーマン予想を解けたという妄執に取りつかれていた殺人鬼」として生涯を終えてしまったことは、本人としても非常に残念だったと思います…)

第二位は眼球堂
建築学・物理学・精神医学者・芸術家という各分野での天才達の死は、人類にとってもとてつもない損失と言えるでしょう。
敏腕政治家の死は人類にとって損失なのか難しいところではありますが、例えば人類に利益を導く政策を主導していたのならば、人類にとっての損失と言えるかもしれません。

第三位は鏡面堂です。
リーマン予想の解にあと少しという所まで迫っていた数学者の死はかなりの損失です。
しかも事件が起こったのは二十年以上前ですから、リーマン予想を解き終わってからの発展を考えるとかなりの損失だと思います。
そして、腕利きの料理人の死は、間違いなく人類が受けたこの上ない損失です!

どんでん返しに驚いた堂ランキング

①大聖堂の殺人
②眼球堂の殺人
③教会堂の殺人

第一位は大聖堂です。
これは「堂シリーズ全体の真犯人であるY氏の存在」によりランクインです。
Y氏が誰だか気になる方はこちらをご覧ください。

第二位は眼球堂です。
一度物語をある程度納得のいく形で終了させた後、物語に破綻なく完璧などんでん返しが出来ています。
付け足しという形でなく、最初から「どんでん返しを目的として書いている」ことがよく分かるので、第二位にランクインです。

第三位は教会堂です。
こちらは、トリックというよりも「宮司司という魅力的であり、物語の語り手として都合の良い登場人物を死亡させた」という意味でランクインです。
てっきり何らかの手段で脱出するものだと思っていただけにショックでした。

以上が堂シリーズランキングです。
あくまで個人的な見解ですので、異論がある方もいるかと思いますが何卒ご容赦くださいませ。
ネタバレランキングを振り返ってみると、全て「大聖堂の殺人」が一位となっています。
周木律さんも堂シリーズの集大成として執筆したので気合が入っていたのでしょう。

堂シリーズ全体を振り返ってみると、周木律さんの様々な工夫にたくさん驚かされたシリーズでした(途中で読むことを止めようかと思うこともありましたが…)。
眼球堂はもちろんですが、仕掛けの多さで驚いたのは五覚堂です。
映像の中の太陽のさす方向から時間軸を誤認させ、宮司司さんや読者が考えるであろう「ビデオの中の映像を反転させている」というトリックを否定するための仕掛けもあり、読者を十重二十重に騙そうとしており、とても面白く読むことが出来ました。

周期律さんの他の作品にも手をだしてみようと思います!