堂シリーズ第一作目! 眼球堂の殺人~The Book~【感想と考察】

感想
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2013年4月に講談社ノベルスから発行された、周木律(しゅうきりつ)さんの作品「眼球堂の殺人~The Book~」の感想です。

第47回メフィスト賞受賞作品で、「密室!館!不可能犯罪!正統かつ清新な本格ミステリ!刮目せよ、これがメフィスト賞だ!!」と本の帯で紹介されており、出版社側の気合がうかがえます。


※総評(ネタバレ前)以後、ネタバレがあります!!

※今後出てくる作品のページ数は「講談社ノベルス」のページ数です。

あらすじ

天才建築家・驫木煬(とどろきよう)が山奥に建てた巨大な私邸<眼球堂>
そこに招待された、各界で才能を発揮している著名人たちと、放浪の数学者・十和田只人(とわだただひと)。彼を追い、眼球堂へと赴いたライター陸奥藍子(むつあいこ)を待っていたのは、奇妙な建物、不穏な夕食会、狂気に取り憑かれた驫木……
そして奇想天外な状況での変死体。この世界の全ての定理が書かれた神の書『The Book』を探し求める十和田は、一連の事件の「真実」を「証明」できるのか?

感想

とても満足のいく本でした。
論理的なトリック、謎解きへの伏線、何度も読者を驚かせる様々な仕掛け…
そして何よりも心を震わせるのは読者への挑戦状!!(P289)
この読者への挑戦状は一風変わった物になっています。
作者からの問いかけは2つ。それを完璧に答えられるかどうかが、本作の最重要事項です。

この本の魅力の一つは、魅力的な舞台です。
あらすじで紹介したとおり、本作の舞台は「巨大な私邸」なのですが、直径40メートルの円形の建物を内服する直径100mの大理石の庭、そしてその庭に乱立する複数の白柱…
眼球堂の登場は物語開始すぐ(P25)なのですが、読者はここで一旦「眼球堂」を理解するために深く考える必要に迫られます。

登場人物たちも実に魅力的です。
本作の探偵役にして放浪の数学者:十和田只人
本作の助手役にして駆け出しのルポライター:陸奥藍子
建築原理主義に取りつかれた世界を代表する建築学者:驫木煬

他にも、精神医学者・芸術家・物理学者・政治家等が登場しますが、いずれも各界の第一人者。建築について各分野からの考察を述べるシーンがありますが、とても興味深く読むことが出来ます。
(本作に放浪の数学者:十和田先生ですが、「ポール・エルデシュ」というモデルとなった人物がいたことに驚きでした)

そんな各界の天才達が不可能状況の解明に挑みますが、皆一様に決定打に欠ける推理しか出てきません。
そんな中、颯爽と推理を披露する数学者:十和田先生…かっこいいです!!

しかし館ものを扱う以上、どうしても頭をちらつくのが、推理小説という同じジャンルにいる館シリーズ。
周木律さんご本人も影響を受けた方のお名前に綾辻行人さんを挙げていました。
綾辻行人さんにいわば真っ向から挑む、そして脅威の一つとなった作品だと思います。

周木律さんは「堂シリーズ」を確立されているそうなので、他の堂についても読んでみなければ!と思わせるいい作品でした。

堂シリーズ未読の方には独断と偏見でまとめた堂シリーズランキングがおすすめです。

総評(ネタバレ前)

読んでよかった度:☆☆☆☆
また読みたい度:☆☆☆
館シリーズ未読の方には特にオススメ度:☆☆☆☆☆

※以下ネタバレがあります!!

総評(ネタバレ後)

陸奥藍子=善知鳥神については、十和田先生が善知鳥神に言った5つの証明補強要素(P354~)に加えて、
・眼球堂を見た直後、深呼吸して目を閉じた陸奥藍子の頭の中に眼球堂の俯瞰図が出来ている(P27)→事前に知っていたから簡単に俯瞰図を思い描けた。もしくは天才性の現れ。
・眼球堂の正式な招待客でなく、追い返されることをも考えられる藍子が「ずしりと重たいキャリーバッグ」を持ってきたこと(P38)
など、疑いの目を向けるべき細かな記述はたくさんあります。

私が最初に陸奥藍子を疑った部分は

(黒石が陸奥藍子に対して言うセリフ)
黒石「…俺に似ていて、切れる。おそらくは、今ここにいる面子の中で、最もな」
この黒石という男は、鋭い。

という部分です(P159)。
各界の天才達が集まる場で「誰よりも頭がいい」と言われて否定しないのはさすがに違和感を覚えました。
(陸奥藍子であれば、「いやいや私なんて…」と言うべき部分でしょう)

陸奥藍子に疑いの目を向けると、後は陸奥藍子の年齢(P70)、善知鳥神の年齢(P20)、後半やたらと出てくる「真実ーー」という表現から、陸奥藍子=善知鳥神と推察することは出来ました。

また、眼球堂そのものに関しては、二重扉・夜間の一定時間に開かなくなるドア・明回廊と暗回廊の境など、館シリーズを読んだことがある私としては、「あ、この館、回るぞ!」と思ってしまいました。

しかし、館が動くことは謎のほんの一部でしかありません。眼球堂には実に様々な仕掛けが隠されていました。
特に、眼球堂に存在する無数の白柱に隠れている建物があるという、一見意味のない柱が盲点になっているトリックはとても面白かったです。
完全数の話、「どうして眼球堂は眼球なのか?」という話などが伏線になっていましたので、気付いても良かったのに…!と悔しい部分でした。

また、陸奥藍子=善知鳥神のローマ字のアナグラムは痺れました。
周木律さんはどれほど読者を喜ばせてくれるのかと!

個人的に一番気になる点は、「眼球堂を満たした水は綺麗だったのか?」という点です。
というのも、「眼球堂を巨大なプールのようにした大量の水は山頂付近にある湖から引いてきている」(P312)というのが十和田先生の考察ですが、山の湖の水は汚いです(海外生活が長い十和田先生がそのことを知らないとは思えません)。
ですので、大理石の部分に湖の水を流し込んだとすると、どうしても土や落葉などの汚れが目立つと思います。
作者もこの問題は気にしていたのか、三日目の昼は眼球堂全体を霧で覆っています(P217)。

ちなみにこのトリックに必要な水の量は、十和田先生の計算によると約6万立法メートル(P312)。
これは25メートルプール100杯分に匹敵します!!大量ですね…

さてまずは湖に浮かぶであろう落葉などについて考えます(この事件は9月に起こっている(P346~P348)ので、落葉などはそもそもあまりないかもしれませんが…)。
まず、眼球堂の周囲の描写ですが、
眼球堂に向かう道中「道の両側は彩度の低い原生林が鬱蒼と繁りつつ」(P23)
ぐらいしか書かれていません。
眼球堂俯瞰図(P28)では、眼球堂の周囲は杉のような針葉樹で覆われていることが分かりますが、この眼球堂俯瞰図は犯人が書いた手記ですので、実際にこうだったかは分かりません。
つまり、眼球堂がある山頂にある湖の周囲には木が一本も生えていなくても問題はない→落葉等のゴミはない、ということが言えると思います。

落葉やゴミについては解決できたのですが、土・泥をどう処理するかについては解決出来ませんでした…
…というのも、湖の水の透明度が高くても、湖から水を引く以上、必ず土が入るからです。
「このあたり一帯が水源地になっていますので、地下水を電気で汲み上げて使っています」(P205)とあるため、地下水を利用した可能性もありますがやはり綺麗ではないでしょう。

この「眼球堂を満たした水は綺麗だったのか?」問題に対して、善知鳥神は何の解答も示していません。
つまり、「実は水道水で眼球堂を満たしていた」という回答でも問題ないと思います!
もしくは、「25メートルプール100杯分の貯水槽を作った」とかですかね。


十和田先生と陸奥藍子の最初の出会いのシーンで、十和田先生が陸奥藍子に対して「四桁の数字を言ってみろ」と言い、それに対する陸奥藍子の回答は「1729」(P13)でした。
きっと、この数字にも深い意味があるのだろうと思い調べたら「1729」はタクシー数という数だそうです。
Wikipediaを読みましたが、タクシー数がどういう数字が理解は出来ませんでしたが…

そして、陸奥藍子=善知鳥神だったとすると、十和田先生は事件後かなり苦悩したと思います。
二年間も天才:善知鳥神に対してご高説をぶっていたわけですから…
例えば1729の平方はすぐに言えましたが立方はすぐに言えなかったり、「ピタゴラスの定理がいくつあるか知ってるか?」と聞いたり(P13)…「リーマン仮説」の話をしたり(P21)…、神に対して「不勉強」だと言ったり(P48)
穴があったら入りたいとはこのことですね…

読者に真っ向から挑む、スケールの大きなとても素敵な作品でした!

堂シリーズ第二作目:双孔堂の殺人~Double Torus~の感想はこちらです。

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