あなたもきっと騙される! 双孔堂の殺人~Double Torus~【感想と考察】

感想
スポンサーリンク

2013年8月に講談社ノベルスから発行された、周木律(しゅうきりつ)さんの堂シリーズ第二作目「双孔堂の殺人~Double Torus~」の感想です。

第47回メフィスト賞を受賞した作品で、「眼球堂の殺人~The Book~」からわずか4カ月後に発行されています…!
眼球堂は素晴らしい作品でしたので、今作も期待して読み始めてみました。


※総評(ネタバレ前)以後、ネタバレがあります!!

※今後出てくる作品のページ数は「講談社ノベルス」のページ数です。

あらすじ

Y湖畔に伝説の建築家が建てた、鍵型の館ー「ダブル・トーラス(双孔堂)」。
館に放浪の数学者・十和田只人を訪ねた、警察庁キャリアの宮司司(ぐうじつかさ)は、同時発生した二つの密室殺人に遭遇する。事件の犯人として逮捕されたのは……
証明不可能な二つの孔の難問、館の主の正体、そして天才数学者たちの秘められた物語を解く鍵は!?
メフィスト賞『眼球堂の殺人』を超えたシリーズ第2弾!

感想

第一作に引き続き、とても満足のいく本でした。

今回も密室!館!不可能犯罪!です。
八角形の建物に百メートル以上ある廊下がくっついている…としか表現できないのが本作の館:双孔堂です。
(館は湖の上に建っており、建設にはかなりお金がかかったと思われます)

第一作:眼球堂の殺人では各界の天才達が館に集合していたため様々な分野の話が登場しましたが、本作は登場人物に数学者が多いため数学の話が多数登場します。
位相幾何学・トーラス・ポアンカレ予想等々、数学に縁がない方をやや置き去りにする作品です。
しかし、数学的な理解が全くなくても謎は解けます。謎解きに必要な部分は十和田先生が何度も解説してくれているからです。(もちろん、理解があったほうが今後の人生が豊かになるのでしょうが…)

第一作:眼球堂の殺人で登場した「読者への挑戦状」はありませんが、謎を自力で解きたい人には「第Ⅳ章 犯人は誰だ」まで読んでOKです(次は「第Ⅴ章 犯人は君だ」になりますので)。
察しがいい人は「第Ⅲ章 犯人は彼か」まで読んだ時点で本作の主要な謎は解けるかもしれません。

そして本作は、第一作ではあまり描かれなかった「動機」の部分の解明も可能です(私は思い至りませんでしたが…)。ホワイダニットの視点から読み解いてみるのも面白いと思います。

密室の謎そのものはある程度古典的な方法なのですが、密室トリックを解いたとしても真相は遥か彼方にあります。
最後の最後まで読者を騙す仕掛けがあり、読み終わってからまた読み返してしまうことは間違いありません!
注意深く読んでも、きっと騙されます!

そして、双孔堂から読み始めても問題ありませんが、全ての伏線を回収するためには、第一作:眼球堂の殺人を読む必要があると思います。第一作もオススメですので、ぜひ読んでみてください。
また、堂シリーズ未読の方には独断と偏見でまとめた堂シリーズランキングがおすすめです。

総評(ネタバレ前)

読んでよかった度:☆☆☆☆
また読みたい度:☆☆☆
講談社ノベルス表紙イラストの宮司司さんがかっこいい度:☆☆☆☆☆

※以下ネタバレがあります!!

総評(ネタバレ後)

物語が始まってすぐ(P19)、十和田先生が捕まってしまった描写にまず驚きました!

事件が起こったシーン(P61-P62)を読むと、犯人の特定は容易です。
というのも、十和田先生が席を外したシーンで立林さん以外は全員広間にいます(登場人物が広間からいなくなる詳細な時間はP130参照)。
①十和田先生が犯人②全員が犯人③共犯がいる④登場人物以外の第三者が犯人、でなければ十和田先生を書斎の浴室に押し込むことが出来たのは立林さんのみです(④は(P94)で否定されています)。
つまり、本作のテーマはフーダニットではなく、ハウダニット・ホワイダニットと言えるでしょう。

さて、立林さんは「事件現場である書斎に真っ先に駆け込み、すぐに明かりをつけます(P63)」。
このシーンだけだと明かりのスイッチの場所が判明しないのですが、宮司警視の現場検証時に「書斎の右奥」にスイッチがあることが分かります(P121)。
書斎の右奥には倉庫と繋がる扉があるのみであり…ここで分からなくなりました。
倉庫との扉が開いていたとしても、事件現場が完全な密室でなくなるだけで、「立林さんが1階と2階をどうやって高速で行き来したか」の問題が全く分かりませんでした。
長い廊下を折りたたみ自転車等を使用し高速で移動する案も考えたのですが、さすがにそれは美しさに欠けると思うので却下です…)

犯人にとっての隠し通路は自明の存在ですが、双孔堂が2階建てだと思い込んでいる登場人物及び読者にとっては1階と2階の行き来問題が解決できません。「建物全体を使った叙述トリック」と言ったところでしょうか。
宮司警視の「1階と2階の間に『人が内側を行き来できる通路となるほど太い柱はほかには見当たらない』」という詳細な現場検証(P109)により、読者をミスリードしている点も混乱を助長させています。

花火の音(P136)、場所によって携帯電話の電波が繋がらないことがヒントになり、双孔堂の見取り図(P69)を見つめ、丸2日は考え、ようやく地下の存在に思い至りました!(作者がヒントとして提示していた「窓・エレベーターの速度」(P229)については疑いもしなかったですね…)
個人的には
「二階に上がってからというもの、どおん、どおんという太鼓を叩くような低くて鈍くて長い、耳鳴りのように不愉快な音が、平を苛み続けている」(P64)
という事件後の描写が面白いなと思いました。
初めて読んだときは何とも思いませんでしたが、これ、花火の音だったんですね。

一つ、十和田先生に文句を言いたいことが。
十和田先生が隠し通路及び地下の存在に思い至った理由について「自分が広間からトイレに行く際に、誤って倉庫に行ってしまった」ということを知っていたからだと思います。
というのも、自分が倉庫で拉致されたかが分かっているからこそ「倉庫が怪しい」「抜け穴が2つある」という発想になると思うからです。
抜け穴の可能性を宮司警視に早く伝えていれば、倉庫の捜査→隠し通路の発見に繋がり、鳥居美香さんは拉致されずにすんだと思います!

鳥居美香さんと言えば、彼女はギリシャ文字が苦手(P43)→実際に自分の部屋のギリシャ文字を誤読している(P57)→その誤読が原因で犯人に拉致された…というのは、全く読み取ることが出来ませんでした。
立林さん、早合点が過ぎる!!

また、立林付=木村位の漢字のアナグラムには驚きました。
木村の漢字の部分については思い至っても良かったと反省です(くらい、は思いつかなかったでしょうが…)。

そして本作の目玉は宮司警視の妹・宮司百合子が双孔堂と善知鳥神との関係性を暴き出すP263の部分です。

この事件はダブル・トーラスという強い対称性の下で起こされたものです。抜け穴が二つ(ダブル・トーラス)、被害者も二人(ダブル・トーラス)。だとすれば加害者も二人(ダブル・トーラス)だと考えるのが、当然の推測ではないでしょうか?

…なるほど!!!
第Ⅴ章の最後まで十和田先生がダブルについて熱弁しているなど、本作はダブルで彩られているので、この可能性に思い至っても良かったですね…
そして「そもそも、飯手真央さんのお名前って、最初から自分は善知鳥神だって名乗っているようなものですよね?」(P263)という部分を読んだとき、全く理解できなかったのですが、
いいてまお・うとうかみ
一文字ずらしのアナグラムか!と気付いたときは、見事に騙された!!と思ってしまいました。


本作とは直接関係はないのですが、
・同一人物が「館」を建てている
・その人物が建てる館は特殊な建物である
・本作の照明の部分
等々どこかで聞いたことのあるプロットが続いていますが、これはセーフなのでしょうか?(他作品のネタバレに繋がるためあまり詳細は書けませんが…)
セーフだと出版社が判断したので世に出回っているのだと思いますが…

このシリーズの特徴:十和田先生が謎を解く、善知鳥神が暗躍する、人物名アナグラムがある、といったことは分かってきたような気がします。次回作はそういった心構えで読むことが出来ると思います。

読者を唸らせる様々な仕掛けがある素敵な作品でした!

堂シリーズ第三作目:五覚堂の殺人~Burning Ship~の感想はこちらです。