新本格の足音が聞こえる一冊! リラ荘殺人事件 感想と考察【ネタバレあり】

感想
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1976年1月に講談社ノベルスから発行された、鮎川哲也(あゆかわてつや)さんの小説です。

作者は「鮎川哲也賞」と名前がつく賞を創設するなど、推理小説の未来に貢献された方です。
ちなみに、鮎川哲也賞は現在も継続されています。
最近の受賞作の有名どころと言えば、「屍人荘の殺人」(第27回:平成29年(2017年)度受賞)でしょうか。神木隆之介主演で映画化もされた作品です。

※今後出てくる作品のページ数は「角川文庫」のページ数です。

あらすじ

埼玉県と長野県の境近く、かつては個人の別荘であった寮「リラ荘」を、日本芸術大学の学生七名が訪れた。その夜、橘と紗絽女の婚約発表に、学生たちは心のざわめきを抑えられなかった。翌日、リラ荘そばの崖下で屍体が発見される。横には死を意味する札、スペードのAが。そしてスペードの2が郵便受けから見つかり、第二の殺人が起こる。事件は連続殺人の様相を呈し、第三、第四の殺人が―。本格ミステリの金子塔を復刊!

※このあらすじは角川文庫の背表紙から引用しています。

感想

この作品を読んで個人的に驚愕した点は、作中登場人物の尼リリス(本名:南カメ)の体重についての書かれ方です。
「ハムのようなふとい腕」(P59)「脂肪過多」(P250)「ぶくぶく肥って」(P371)など、太った女性として書かれているのですが、身長168㎝・体重65キロです。
それほど太っているようには思えません。むしろ適正体重のような…。女性の体重に理解がない恐ろしい時代です…。


肝心の内容についてです。
約半世紀前に書かれた小説ですが、あまり古臭さを感じさせません。
(古臭さは感じませんが、多少の知識は必要です。作中出てくる「259789」という数字を見て、この「この数字は電話番号だ!」と思いつくぐらい書かれた時代に精通していると、より作品を楽しめます。)

読み始めすぐに鉄道路線図(P7)や屋敷の見取り図(P13)があり、作品への期待度が高まります。
その後も個々人のアリバイをまとめた表(P42)や動機をまとめた表(P113)が登場するなど、作者から「謎が解けるもんなら解いてみろ!」と言われているような気がします。


しかし何分昔の小説ですので、現代の推理小説に慣れた人が読むと「このトリック見たことがある!」と思いついてしまいます。
また、章が17に別れているのですが、これまた推理小説に慣れた方が見れば、被害者の人数、さらに勘がいい方ならトリックの一端すら掴めてしまうかもしれません。

論理的に全ての謎を解くことが出来る作品ではないですが、書かれた時代からすると新本格の足音が聞こえる一冊だと思います。

総評

読んでよかった度:☆☆
また読みたい度:☆
「本格派の驍将」という命名には疑問が残る度:☆☆☆

※以下ネタバレがあります!!

考察

259789

「259789が何を表しているか」「この数字がどのような意味を持つか」という暗号を真剣に考えましたが…

結果的に言えば、この暗号は解くことが出来ません。

・クジの抽選が二十一日の午前十一時から行われたこと
・クジの抽選発表の実況放送をやっていること
・正午のローカルニュースでもアナウンスしていること(P397)
などの情報が謎解きの時(P397)にのみ発表されるからです。

強いて言えば、二条が二十一日の夕刊を探していること(P225)がヒントなのでしょうが、
・夕刊に載っている6桁の数字→宝くじの数字
と考え、
・宝クジの当選番号発表は午前十一時からである→尼リリスのレインコートが盗まれた時間がおかしい(P398)
と発想を飛躍させるには宝くじに関する前提条件が秘密にされ過ぎていたと思います。
(この作品が書かれた当時は、全国民が自治連合宝クジに夢中で上記の情報が常識だった可能性はありますが…)

最後のドタバタ

日高鉄子による尼リリス殺害は、非常にドタバタした印象を受けます。

尼リリスを殺したのは牧と日高のどちらか?
という問題に対して、「犯人は連続殺人の際に使われていた物と同一のトランプを使用している」ということは一つのポイントです。
しかしながら、個々人の持ち物検査を入念に行っている描写や建物をしらみつぶしに調査した描写がない以上、「牧が予備のトランプを持っていた」という展開でも(物語として面白くはないですが)論理的に問題ありません。

たまたま、ハートの3とクラブのジャックを日高鉄子が焦がしてしまい、東京で新しいカードを入手していた→
だから日高鉄子は尼リリスの側に同一のトランプを置くことが出来たのだ。
という理論ですが…さすがに都合が良すぎるでしょう。
ハートの3とクラブのジャックがなくなっていた理由に対する答えが「偶然にも、日高鉄子が連続殺人を偽証することに成功した」であったのは、とても残念です。


また、動機の面からも無理があるような気がします。
「愛する男を絞首台に追いやろうと企んでいた尼リリスに対する怒り」(P406)「殺人の容疑を着せらせている安孫子宏を救う」(P407)といったことですが、これだけの理由で尼リリスを殺害するのはリスクが大きすぎると思います。(自分が逮捕されてでも助けたかったのでしょうか?)
「尼リリスがトリカブトを採っている所を見たのですが…」と警察に言えばそれで済んだような気がします。

警察の描写

あまりにも警察が無能に書かれ過ぎて可哀そうになります。

・行武さんのブルーサンセットについて「多少の暇はかかるが、やがてつきとめてみますよ」(P104)と言い切っている警部が何も調べないこと
・「犯人は心をゆるした人間だったことは判るな」(P122)と容疑者を絞ることに成功しておきながら各人の持ち物検査をしないこと
・トランプの数字で連続殺人が暗示されていたにも関わらず、警察がいる建物の中で殺人を許してしまう(P210)こと
・そもそも、死体のそばに落ちていたトランプの数字が連なっていることのみで、一連の事件を同一犯と決めつけていること

など、最後の名探偵の活躍を際立たせるためでしょうが、さすがにご都合主義が過ぎるのではないかと思います。

トランプの数字を使った順番の誤認、ブルーサンセット(P68)、砒素中毒(P392)などを使ったトリックは、現代の小説でも時々見ることが出来ます。(砒素中毒を扱った小説と言えばこちらでしょうか)。
砒素中毒に関しては、庭の花の色などの色の描写をふんだんに盛り込む事で、リリスの肌の白さを際立たせないようにしている点がうまいと思います。

殺害方法も多種多様ですが、それに関して登場人物が
「批評家にマナリズムだといわれるのがいやだったんだな。やつらはすぐにこの言葉を使いたがるからな」(P268)とメタ視点的発言をしていることも面白いと思いました。(マナリズム=マンネリズム=マンネリ)

現代の感覚からすると物足りない部分も多かったですが、楽しく読める一冊ではありました。

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