阿津川&斜線堂【あなたへの挑戦状】 感想と考察【ネタバレあり】

感想
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阿津川辰海さんと、斜線堂有紀さんの共作。
両著者が1話ずつミステリを書き、1冊の本としています。
タイトル通り「あなたへの挑戦状」が添えられている、凝った趣向の本となっています。
阿津川著という点と、いかにもなタイトルに惹かれて読んでみました。

あらすじ

水槽館の殺人
巨大な水槽のある円柱型の建物「水槽城」で開始事件が発生。犯行当時、水槽で現場は隔離されていた。

ありふれた眠り
犯人は犯行後、死体の横で一晩眠っていた。才能あふれる妹を持つ凡人の兄は、とある秘密を妹に話せずにいた。

講談社文庫帯より。

阿津川著は巨大水槽がある宿泊施設を舞台とした密室もの。
斜線堂著は死体発見現場を巡る、兄弟の物語。

感想

では、阿津川著の「水槽館の殺人」から。

正直に言って、これまで読んだ阿津川作品で一番驚愕しました。


まず、登場人物達の行動・思考が理解不能です。
「もしかして物理法則や常識が全く違う世界の話?」と思うくらい不可思議なことだらけです。
そして、そんな登場人物達の殺人事件なので、事件そのものも結構酷いです…。
なにより、「読者への挑戦文」的なものが沢山挟まれる割に、内容がそれに見合っていません!
せめて「読者への挑戦文」的なものが無ければ安らかに読めたのに…

以下はネタバレもあります! 箇条書き注意。

・プールの水跡にすごくこだわっていたのが不思議です。
泳いで渡ったら服が濡れるはずだと…いや、何故裸で泳ぐことに言及しないのでしょう?
タオル・ペーパ―etcで簡単に拭いて、トイレに流し証拠隠滅すればこの犯罪は完了では?と思ってしまいました。

・栄太が管理人息子を殺害した理由が納得いきません。
妻殺しのトリックを隠すためらしいですが…隠せなくないですか?
プールの水が抜けることは別に秘密じゃありません。管理人を含め、知っている人が多数います。
当然、管理人息子の死体はすぐ発見されますし。
「プールの水を抜いた」「水が抜けることを知っている人間」が犯人となってしまいます。
元建築関係者だった栄太は当然疑われることになるような…。

・これまた栄太…どうして途中でやめたのでしょう?
急な心変わりは別にいいのですが…
こそに到る伏線とか、思わせぶりなそぶりとかがあって欲しかったです。
ただ、栄太の最後の行動は賞賛に値します。
瀕死のなか、めちゃくちゃ頑張ったね!

・管理人息子、凄い頭脳の無駄遣いです。
その頭脳でもっと穏便に行動できなかったのでしょうか?
自分の命と引き換えに、凝ったミステリを形成しなくたって良かったじゃない…。
いや、あえてそうするのが美学だったのでしょうが…。

・妻、どうして栄太の事を言わなかったのでしょう?
保険金が下りないとか、栄太を慮ってとか、女優業に支障が出るとか、そういった記述も特になかったと記憶しています。
なのに言わないということは…え?どういうこと?面倒くさかったの?

・刑事さん達の思考が怖いです。
とくに、鮎美の「鳥目発言」を鵜吞みにして「鮎美≠犯人」と断言しているのは驚きました。
この世界の人間は嘘が付けないなら成り立ちますが…犯人なら普通に噓もつきますよね。
鮎美の発言の裏取りか何かが欲しかったです。

・文章では「濡れたハンカチはポケットの中」とあったのに、「図では死体横に落ちている」のが気になりました。
私(読者)は小さな手掛かりを探しながら読んでいます。
誤字脱字は仕方ないとして、こんなあからさまなミスはやめて欲しいです。
出版社の人はもっとちゃんとチェックして欲しいです。

他にも色々引っ掛かる点はありました。
が、この書き口こそが阿津川さんの策略!
私はまんまと嵌って、手のひらでコロコロされている読者です…。
事実、阿津川さんの作品、ついつい読んでしまいますもん。

さて、驚愕の真実で幕を閉じた「水槽館の殺人」でした。
非常に興味深く楽しい作品をありがとうございました。
阿津川さんの次回作、待っています。


次に「ありふれた眠り」です。
こちらは平凡な兄と、才能あふれる妹が織りなす事件でした。
文章が非常に読みやすく、登場人物達の機微もしっかりと伝わってきます。
殺人事件自体はありふれたものですが、事件うんぬんよりも兄弟の関係性を読む話でした。
そういった意味では、犯人当てミステリではありませんし、犯人はすぐに検討が付きます。

高校の現代文テストに出てきそうなほど、兄弟の心証は読みやすいです。
また、女性的な情緒を文章内に感じます。
個人的にこういった登場人物の心の機微を拾う小説は好きじゃないのですが、こちらは珍しく楽しく読めました。

ミステリとしては特に言うことはありません。
無理なこじつけや、非現実的なこともなく、成るようにして成った事件でした。
謎解きするミステリじゃないのでスラスラ読めます。


最後に「あなたへの挑戦状」についてですが。
あなた=読者じゃなく、阿津川さん・斜線堂さん両名だったのですね…。
これには普通に驚きました。
「あなたへの挑戦状」の後に、結構なページ数が残っていたので、てっきりどんでん返し系だとばかり…。
どんでん返しが無かったのは残念ですが、代わりに両作家さんの中の良さは良くわかりました。
次回は是非、読者への挑戦状を期待します。

まとめ

面白い形式の競作でした。
阿津川さんにはいつも通り楽しませてもらいましたし、斜線堂さんには久しぶりに情緒豊かな小説を読ませてもらいました。
袋とじも興味深かったです。
こういう変わった本、どんどん出して行ってほしいです。

阿津川さんの本の感想はこちらから

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