素晴らしいホワイダニット! 水車館の殺人 感想と素人探偵の謎への迫り方【ネタバレあり】

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1987年9月に講談社ノベルスから発行された、綾辻行人(あやつじゆきと)さん著の推理小説です。
日本のミステリー界に大きな影響を与え、新本格ブームを巻き起こしたとされる作品であり、「館シリーズ」の第二作!!

※今後出てくる作品のページ数は「講談社ノベルス」のページ数です。

あらすじ

惨劇に彩られた「十角館」と同様、奇矯な建築家・中村青司の手になる「水車館」。古城を彷彿させる館の主は、過去の無惨な事故ゆえ常に仮面をつけた藤沼紀一。妻は幽囚同然の美少女。一年前に起こった奇怪な殺人と、一人の男の密室からの消失。
…舞台は整った。一年後のいま、戦慄の大トリックが待ちうける!

※このあらすじは講談社ノベルスの背表紙から引用しているのですが、まとめ方が雑な気がしますね…
「奇矯」という言葉にも違和感を感じますし、「幽囚」という表現もどうでしょうか…
一番の問題は「戦慄の大トリック」ですね。ちょっと、表現が安っぽすぎませんか…

感想

とても面白いです!!!

山奥にある巨大な水車を持つ水車館、ゴムの仮面を纏う館の主人、幻想的な絵画、執事、嵐の中で起こる事件、バラバラにされた死体、密室…
本作には、歴史の中で育んできた様々な「本格ミステリ的エッセンス」がこれでもか、と詰め込まれています!

そして、この本には明確に「読者への挑戦状」と銘打ったものはありませんが、分かりやすい「インタールード」があります。
綾辻行人さんもあとがきの中で、「『犯人限定の論理』をかなり重視してみました。」(P273)と書いてあるほどですので、推理小説ファンは真っ向から作品に挑むしかありません!!

個人的に、この作品はとても素晴らしいホワイダニットが仕掛けられていると思います。
推理小説の中には殺人を犯す様々な動機が出てきますが、『明治時代から続く一族の恨み』『揉み合っているうちに偶然打ちどころが悪くて』などでは個人的にあまり納得できません…
(もちろん、上記のような動機だとしても、動機以外の味付けにより素晴らしいものとなっている作品は多数あります)
ネタバレに繋がるのであまり述べることが出来ませんが、パズル的な推理小説が好きな方にとっては、非常に興味深く読むことが出来る作品です。

総評

読んでよかった度:☆☆☆☆☆
また読みたい度:☆☆☆☆
推理小説慣れしている人にはもしかしたら物足りないかもしれない度:☆☆☆☆☆

※以下ネタバレがあります!!

素人探偵の謎への迫り方

一気に最後まで読み進めるつもりでしたが、インタールードが『読者への挑戦状!』に見えたので、今回は犯人やその動機を完璧に見出すことを目的に読んでみました!
以下は、私が水車館とどのように闘ったのか、その闘いの記録です。

1回読み、もう1回読み、もう1回読み…分かりません。

現在と過去が入り乱れる作品であるため、メモを取りながら何度も読み返していたのですが、「扼殺出来たのは?」「バラバラにして燃やした理由は?」等の人様には見せることが出来ない単語が、メモ用紙に書き連ねられていきました…

現在編と過去編で主人公:紀一が一人称と三人称とで書かれていたため、「この人物は同一人物ではない」とあたりをつけることが出来ました。

将来を嘱望されていた若い絵描き(正木)が、身体は無事なのに筆をおいた理由を想像し、「目が悪くなったからだ!」と思いついてから、一気に世界が広がりました。
(そういった視点で読み返すと、脅迫状の色・風景描写等、様々なところにヒントがちりばめられていたことに気付きました…。読んでいる時に気付きたかったです…)

「身代わりを立てるための殺人」について書かれていた推理小説があったことを思い出し、バラバラ死体=古川だと考えてからは、密室トリックを解決することが出来ました!

以下は、私の数々の妄想です…

・由里絵が紀一以外の人物と喋るシーンが少なかったので、由里絵は紀一の妄想の中の人物だ!
→他の人と喋る場面はかなりありますね。思い込みは怖い…

・(最初は、バラバラ死体=紀一だと思っていたので)正木が紀一を殺した後に燃やした事件と、4人が共謀して絵を盗んだ事件とがたまたま一緒の日に起こったんだ!
→身体をバラバラにする理由がないし、そもそも古川の逃げ場がないので断念。(誰かの車に隠れていて、機を見て脱出…かとも思ったが、バレる可能性の方が高い)
そして、こういう本もあるでしょうが、推理小説として美しくない展開を綾辻さんが採用する訳はありませんね。

ある程度の謎を解くことは出来ましたが、どうしても『紀一が生きているのか死んでいるのか、どちらの場合もどこにいるのか?』が分かりませんでした。

現代編の家政婦(野沢)が言う異臭から考えるに、壁に塗りこまれてでもいるのか?いや、そんな時間はなかったはず…などと考えに考えましたが、分からないため解決編を読みました。

ほうほう、なるほど………そんなのありかっ!!

島田潔の発言が頭をよぎります。
「この家は、例の中村青司が建てた館の一つだという事実を、僕たちはもっと考慮すべきなんじゃないかってことです」

館シリーズ、奥が深いです!!!!!

感想の中でも書きましたが、一人目の家政婦(根岸)の死亡に関して、ホワイダニットとして非常に美しいと思います。
というのも、この犯行は「殺人を犯すというデメリットを超えるメリットがある」という意味で、犯行の動機として非常に納得がいくものであるため、犯人特定のための明確なヒントとなっているからです。
(家政婦といえば、「何かまずいものを見た」から舞台からいなくなることが一般的ですが、本作では犯人の目的である館の乗っ取りを成功させるために「紀一の身の回りの世話をしていた家政婦がいなくなること」が必要不可欠です)

100%大正解というわけにはいきませんでしたが、ある程度解決に迫ることが出来ました。
謎に迫るために何度も読み返したのですが、読み返せば読み返すほど細部への拘りや細かな仕掛けを見つけることが出来ます。
未読の方は謎解きを、既読の方は再読をお勧めする名作です!!


綾辻行人さんの館シリーズ第一作:十角館の殺人の感想も書いています。
こちらは、「探偵の謎解き」についても考察していますので、興味がある方はご一読ください。

綾辻行人さんの館シリーズ第三作:迷路館の殺人の感想はこちらです。