1987年9月に講談社ノベルスから発行された、綾辻行人(あやつじゆきと)さん著の推理小説「十角館の殺人」。アフタヌーンで連載中でしたがついに完結!2022年5月に第五巻が講談社から発売されました。
漫画を描いているのは清原紘さん。
絵柄から勝手に女性だと思っていたのですが、男性なんですね。漫画版「Another」も描いており、綾辻行人さんと繋がりが深いようです。
十角館の漫画版は完結してから読もうと思っていたのですが、我慢できずに1~4巻を読んでしまっていました(1~4巻の感想や原作との違いが気になる方はこちらからどうぞ)。
十角館の殺人は素晴らしい名作であることに間違いはないのですが、漫画版はどうなのか。
小説には小説の、漫画には漫画の魅せ方があると思いますので、非常に楽しみに読んでみました。
小説版:十角館の殺人の感想と考察はこちらからどうぞ!
※以後、十角館の殺人のネタバレを含みますのでご注意ください!!
第5巻を読んだ感想
うーん…正直物足りなかったですね。
物足りなかったと思う部分をまとめてみました。
エラリィの謎解き
エラリィはヴァンが犯人である理由として
①十角館の地下室にホコリが積もっている
②地下室にあった白骨が中村青司のものでない場合、青司は身代わりを他にもう一体用意していたことになる。そんなことが可能だったか?
③左手の見立てに隠された意味
を挙げています。
この点に不満があります。
そもそも
生存者が二名しかいない状態であれば、
・二人のうちのどちらか
・外部犯
のどちらかしかありません(犯人はポゥであり、ポゥが自殺した可能性はありますが…)。
その状態で
①地下室にホコリが積もっている
は、外部犯ではない、という根拠になりますが、
②地下室にあった白骨が中村青司のものでない場合、青司は身代わりを他にもう一体用意していたことになる。そんなことが可能だったか?
は、白骨=中村青司である=外部犯ではない、と言いたいのでしょうが、中村青司が身代わりを用意していた可能性がある以上②は成り立ちませんし、外部犯ではない根拠を言いたいのであれば、①地下室にホコリが積もっているだけで十分なはずです。
また、エラリィには、外部犯を否定した後に「もちろん、僕が犯人である可能性はある。しかし、僕が犯人でないことは僕自身が一番知っているからね…」ぐらいのキザなセリフは言って欲しかったです。
見立て
左手を切り取ったのは中村青司の犯行の模倣ではなく、オルツィが左手に付けていた指輪はヴァンと中村千織の関係性を示唆するものだったため指輪を持ち去る必要があった、というのが左手の見立ての骨子だと思いますが、このことは指輪を見ればヴァンと中村千織の関係性が分かる、という真相を理解している人物が辿り着けるものであり、指輪を持ち去った=「ヴァンが犯人である」ということを指し示す訳ではありません。
左手の見立てに関してエラリィは
オルツィが普段使っていない指輪を付けていた
→その指輪は中村千織の物だ
→そしてその指輪は誰かからのプレゼントだ
→指輪を贈った相手はヴァンだ!
という論理展開をしているのですが…飛躍しすぎです。
オルツィが付けていた指輪が中村千織の物であるという根拠もないですし、さらに言えば、その指輪がヴァンからのプレゼントであった、というのは妄想レベルだと思います。
(エラリィは、ヴァンが犯人であることを確信したからこの推理が出来たのかもしれませんが、シンプルにヴァンがオルツィに送った指輪であった可能性もあります)
このエラリィの推理は、まるで「十角館の殺人」を読んだ後に思いついたような感じがしますね…。
ヴァンと中村千織が指輪を贈る程度に親しい間柄だとエラリィが知っていたのならば、もう少し早く真相に辿り着いても良かった気がします…
島田潔の謎解き
原作:十角館の殺人では探偵に成り損ねた島田潔がどのような手でヴァンを追い詰めるのか、非常に楽しみにしていましたが、正直がっかりでした。
中村千織は殺されたのではなく、急性心不全だった。
→そのことを知らない&中村千織と親しい人物が犯人だ!
という動機一点張りの追い詰め方でしたが、ヴァンが「急性心不全だと言うことは、エラリィから聞いていましたよ」と言った場合、島田潔はどうしたんでしょうか?
揺さぶりをかければヴァンはボロを出す、ということまで見越していたのかもしれませんが…それにしても、追い詰め方が甘すぎます。
もちろん、それ以外にも様々な物証を隠し持っていた可能性はありますが、そうなのであればヴァンとドイルのお涙頂戴シーンにページを費やす代わりに、モノローグで物証について言及して欲しかったです。
原作が書かれた時代とは違い2018年の事件ですので、街中にある監視カメラの画像、車についているナビの履歴、燃料用のガソリンの入手経路などから、ヴァンの行動は割り出せるように思います。
至る所にカメラがある現代。犯人にとっては難しい時代になっていますね…
【漫画版】十角館の殺人の最終的な感想
江南について
守須と江南あきらは共犯であり、江南あきらの役割は守須が本土にいることを第三者に見てもらうことだった、と言えるかもしれません!
…と言うことをこちらで予想していましたが、それは全くの空振りでしたし、江南双子説も妄想に過ぎませんでした。
予想が外れたのは残念でしたが、だとすると江南を女子化したことの意味は…?と考えてしまいます。
あとがきの部分で綾辻行人さんは「江南くんの性別変更は大正解でしたね」と書かれていましたが、個人的には何が良かったのかピンときていません(十角館の殺人を知ってもらえる裾野が広がった?漫画の売り上げ?)。
あまり書くと、予想が外れた負け惜しみにしか見えなくなるのでこの程度で…
全体を通して
個人的には「十角館の殺人を漫画で描いたもの」と「十角館の殺人のパロディ漫画」との中間ぐらいに位置付けられる作品だったと思います。
原作:十角館の殺人を読んで衝撃を受けた私としては、漫画版:十角館の殺人を読むことにより、あの驚きを感じることが出来なくなるのはもったいと感じてしまいます…
後、これはさらに個人的な意見で申し訳ないのですが、どうしても私の中の島田潔と漫画の島田潔のイメージ像が一致しませんでしたね…
最後に
漫画を読んで思うことは、やはり原作:十角館の殺人は素晴らしい作品だったということです。
今後、他の館も漫画化するのであれば、余計な味を加えず、原作に忠実に描いて欲しいです(江南があのような姿で描かれている以上、すでに難しいかもしれませんが…)。
読んでよかった度:☆☆
また読みたい度:☆☆
今後の展開に期待度:☆☆☆☆☆
綾辻行人さんの館シリーズ第一作:十角館の殺人の感想と考察はこちら、館シリーズ第七作:暗黒館の殺人の感想と考察はこちらからどうぞ。