【漫画版】十角館の殺人 第一巻~第四巻までを読んだ感想と江南に関する考察

感想
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1987年9月に講談社ノベルスから発行された、綾辻行人(あやつじゆきと)さん著の推理小説「十角館の殺人」ですが、2019年11月に講談社から漫画版が発売されており、現在もアフタヌーンで連載中です。

漫画を描いているのは清原紘さん。
絵柄から勝手に女性だと思っていたのですが、男性なんですね。漫画版「Another」も描いており、綾辻行人さんと繋がりが深いようです。

十角館の漫画版は完結してから読もうと思っていたのですが、我慢できずに1~4巻を読んでしまいました。

十角館の殺人は素晴らしい名作であることに間違いはないのですが、漫画版はどうなのか。
小説には小説の、漫画には漫画の魅せ方があると思いますので、非常に楽しみに読んでみました。

小説版:十角館の殺人の感想と考察はこちらからどうぞ!

追記:第5巻も読み終わりました。全体の感想が気になる方はこちらからどうぞ。

原作との相違点

小説との相違点がいくつかありましたので、簡単にまとめてみました。

事件が起こった年月

小説では1986年の事件ですが、漫画版では「2018年3月12日」になっています。
この変化により一番影響を受けるのが携帯電話の普及でしょうか。
(ちなみに、携帯電話はあまり登場しません。誰かが「証拠保存」と言って、ありとあらゆる場面を写真や動画を撮っても良いのに…と思ってしまいました。)

江南の性別

江南が女性になっていました!これには一番驚かされましたね…。名前も「江南あきら」に変わっています。(小説版では「江南孝明(たかあき)」です)

男性層を取り込みたいという商業主義的な発想なのか、何かの伏線なのか…
まだ連載中なので答え合わせはこれからですが、どちらが正解になるかで漫画の評価が大きく変わると思います。

中村千織に関する事件の内容の違い

中村青司の娘、中村千織が死亡した事件が「クルージングの事故」に変わっていました(小説版では、新年会の三次会の席上において急性アルコール中毒から持病の心臓発作が誘発されたからです)。

・去年(2017年)の1月、ミス研の新年会でクルージングに行った
・ポウが船舶免許と船を持っていた
・悪天候により全員が海に落ち、中村千織の救命胴衣をオルツィが着たため中村千織は死亡(エラリイが中村千織から救命胴衣を奪った?)

というのが、現時点で分かっている事件の情報です。

江南あきらについて気になる点

原作との違いなどを踏まえた上で、江南あきらの気になる点をまとめてみました。

読書家?

江南の部屋が描かれているコマがありますが、本が少なすぎます!!(2018年なので、電子書籍として読んでいるのかもしれませんが…)

また、本を床に平積みで置くのはまあいいとして、本をページが開いた状態で床に逆さまに置いています。
…本が傷む!!!
ちなみに、別のコマでも別の本が逆さまに置いてあることから、江南は日常的に本を開いた状態で逆さまにして置く人物であることが分かります。

このことから分かることは一つ。この部屋に住む人物は本好きではあり得ません。
つまり、
①江南の部屋のように描かれているが、実は江南の部屋ではない
②江南は角島にいる面々が知っている江南ではない
のどちらかであると言えます。

(しかし、江南あきらは島田さんとミステリ談義を行ったわけではないので、ミステリをあまり読まないミス研だった可能性もありますが…)

ドイルという呼び名

江南が守須に「ドイル」と呼ばれ恥ずかしがるコマがあります。

昔の友達からあだ名で呼ばれたからと言って大声を出して恥ずかしがるでしょうか?(中村千織の葬儀シーンで「ドイル」と呼ばれているコマがありますので、昔はそう呼ばれており、またその呼び名に照れがなかったことが分かります)
また、大人数の目の前で「ドイル」と呼ばれたのならばまだ分かりますが、電話口での出来事です。

つまり江南あきらは「ドイル」と呼ばれることに慣れていない人物である、と言えるのではないでしょうか。

「…あいつら全員許せない」

中村千織の墓前でオルツィの手紙を読んだ江南は「…あいつら全員許せない」と言っています。
オルツィの手紙には
悪天候により船が転覆
・オルツィが着ていた救命胴衣が駄目になり溺れていたオルツィをエラリイが発見
・エラリイがオルツィに救命胴衣を着せる
・オルツィが着た救命胴衣は中村千織の物だった
としか書かれていません。

エラリイとオルツィを許せないのは百歩譲って分かりますが、許せない対象が「あいつら全員」になるでしょうか?
他の人々は船の事故に巻き込まれただけです。

つまり、 江南あきらはオルツィの手紙を読む前から、(未だ読者には明かされていない)クルージング事故での全容をすでに知っていた、と言えるのではないでしょうか?

島田さんとの行動

江南がいくら好奇心旺盛な人間だとしても、知り合ってすぐの寺の三男坊と行動を共にするでしょうか?
しかもその三男坊は、どちらかと言うとイケメンではない部類の人間です。(個人的にはもう少しイケメンに描いて欲しかったです。あの島田さんは50代くらいの風格があります…)

江南に対する結論

江南あきらに関するこれらの違和感を統合すると、守須と江南あきらは共犯であり、江南あきらの役割は守須が本土にいることを第三者に見てもらうことだった、と言えるかもしれません!
…島田さんとの出会いなど偶然に頼り過ぎている部分がありますので、かなり無理のある主張ですが。

おまけ

 一巻に登場する江南の部屋のポスターに描かれている卵は割れていますが、三巻に登場する江南の部屋のポスターに描かれている卵は割れていません

他にも部屋の汚さ本の量家具の色など微妙な違いがありますので
①江南は人を部屋に招くときポスターを張り替るタイプ
②江南は人を部屋に招くとき急に本を大量購入するタイプ
等々の特殊な人間でない限り、一巻と三巻の江南の部屋は別の部屋です。(間取りなどからアパートの隣の部屋だと思われます)

また、「アパートを二部屋借りている」可能性もありますが、普通に考えれば「一巻と三巻に登場する江南は別人」「見た目がそっくりであることから一卵性双生児」なのでしょう。

別人であるもう一つの証拠として、一巻の守須は電話口で江南のことを「ドイル」と呼んでいますが三巻の守須は江南のことを「かわみなみ」と呼んでいます
…と言い切れれば良かったのですが、一巻でも「かわみなみ」と呼んでいるので、呼び名は証拠になりませんでした。


しかしながら、この問題に関してあまり掘り下げる気にはなりません。
というのも、もし江南が二人いたとしても「だから?」という気持ちにしかなれないからです。
私が読みたいのは「十角館の殺人を漫画で描いたもの」であって、「十角館の殺人のパロディ漫画」ではありません。
江南あきらの正体ついて、本家:十角館の殺人を超えるか同等の衝撃を与えてくれることを期待しています…

ちょっとした問題提起

まだ完結している作品ではないですが、ここはどうなんだろう…と思う点をまとめてみました。

ダリアの祝福

中村青司が弟に電話するコマで「送ったプレゼントは大切に扱え」「私たちはいよいよ新たな段階をめざすのだ」と言っています。
これは暗黒館の殺人のネタバレにも繋がるため、あえて漫画版で強く主張する必要はないはずです。(暗黒館の殺人の漫画版を描くことが決定しているのならば分かりますが…)

個人的には、第3巻の表紙にダリアの絵が堂々と描かれている点「大いなる闇の祝福」という単語の側にダリアの絵を描く点も気になります。

漫画版十角館の殺人が暗黒館の殺人の内容に触れることなく、どのような結末を迎える予定なのか、今後が気になります。(暗黒館の内容に触れなければ中村青司が単なる変人になってしまいます…)

動機

船が転覆した際に何があったのかはこの後明らかにされていくのでしょうが、船の転覆事故に遭い、溺れ、死にかけたアガサやルルウが殺されるほど恨まれる理由がちょっと思い浮かびません。

荒れた海でたまたま浮かんでいる救命胴衣を見つけることはかなり難しいと思いますので、「船が転覆する前から中村千織から救命胴衣を奪った」と考えるのが自然と言えば自然なんでしょう。
その場合、殺意を向ける対象は救命胴衣を奪った一人になると思いますが…

また、「誰が救命胴衣を奪ったか分からないため、全員の命を奪うことにした」というのは、動機として美しいとは言えない気がします…

ちなみに動機関連で個人的に最悪だと思うラスト「中村千織は自分から救命胴衣をエラリイに託した→そのことを知り絶望する守須」というものですかね…
館シリーズが忌避している社会派式のリアリズムに片足を突っ込まないで欲しいです。

人物の見た目

ポウが22歳にしては老けすぎてる
・島田さんが老けすぎている
オルツィが美人過ぎる
など、色々気になるところがありますが、一番気になる点は、オルツィと江南の見た目が酷似しているという点です。

これは純粋に「書き分けが出来ていない」というレベルで似すぎていると思います。(あえてこのように描いて、十角館のメイントリックを成立させた可能性はありますが…)

最後に

これから無人島に行くのに革靴を履いているエラリィはキャラ通りの動きですし、中村青司の結婚シーンで時計館のような見た目の建物が描かれていることなど、気を遣って描いているなあ、とは思うのですが、「名作」と呼ばれるほど細かな描写がされているか疑問が残ります。

キャラ付けをもっとしっかりするならば、見た目だけに拘るのではなく、2018年の事件にしたことを生かし、「事件現場を携帯電話で撮影しポウに殴られるエラリイ」くらいは描いても良かったのかな、と思います。

まだ続きが描かれるので、今後に期待しております!

読んでよかった度:☆☆☆
また読みたい度:☆☆☆☆☆
今後の展開に期待度:☆☆☆☆☆

綾辻行人さんの館シリーズ第一作:十角館の殺人の感想と考察はこちら、館シリーズ第七作:暗黒館の殺人の感想と考察はこちらからどうぞ。

また、綾辻行人さんの館シリーズ全般に関する感想等はこちらからどうぞ!